株式投資 割引率(WACC)の求め方【実践編】

株式

今回は割引率の求め方について「富士フイルムホールディングス(株)【4901】」を具体例にして解説していきます。

割引率とは?

計算でもとめた将来価値を現在の価値に直すために使用する値のことです。

現在価値に直す理由

将来の現金は現在と比べて価値が低いという考え方からです。理由としては次のようなもの。

❶ インフレなどで現金の価値が下がる
❷ 将来本当に現金を受け取れるのかという不確実性

資本コストとは?

企業が資金調達の際にかかる費用のことで負債コスト株主資本コストを加重平均し求めます。

加重平均って何?という人は»こちら

資金調達にかかるコストを超える収益を出してくれないと投資家は困ります。

よって資本コストが投資家の期待収益率ととらえる事が出来きます。つまり「資本コスト=割引率」ととらえることが出来ます。

例題
資金調達にかかる費用 100万
調達した資金で稼いだお金 80万
100万ー80万=▲20万
投資家

利益がでないのであれば資金を調達した意味は何?それ以上稼いでくれないと困る。

負債コストとは?
企業が銀行、投資家などから有利子負債を資金調達する際にかかるコストのことです。

株主資本コストとは?
企業が株主から資金調達をする際にかかるコストのことでCAPMで求めます。

CAPM(キャップエム)とは?
capital asset pricing model(キャピタル アセット プライシング モデル)の略称で日本語だと資本資産価格モデルのこと。株主資本コストを計算するための一つの理論で下記の式で計算します。

株主資本コスト=リスクフリーレート+β×リスクプレミアム

計算の具体例


全体の流れはこのような感じです。それではひとつずつ解説していきます。

❶ 負債コストを求める

負債コスト=有利子負債比率×(1-法人税実効税率)

では順番に求めていきましょう。

❶-1 有利子負債比率を求める

有利子負債は次の計算式で求める事が出来ます。

有利子負債比率=直近1年間の支払利息÷期首期末の平均有利子負債残高

よって下の2つを求めていきます。

  • 直近1年間の支払利息(損益計算書より)
  • 2019年と2020年の平均有利子負債残高(貸借対照表より)

直近1年間の支払利息

出典:EDINET

平均有利子負債残高

出典:EDINET

直近1年間の支払利息 2,316
期首期末の平均有利子負債残高 613,315

上の2つより有利子負債比率を計算します。

有利子負債比率=直近1年間の支払利息÷期首期末の平均有利子負債残高
2,316 ÷ 613,315 = 0.3776% 約0.38%

有利子負債比率は0.38%と計算出来ました。

❶-2.(1-法人税実効税率を掛ける)

次に(1ー法人税実効税率)の部分です。
日本の実効税率は約30%ですので

1ー0.3=0.7

負債というのは節税効果がありますので有利子負債比率に(1-実効税率)を掛けることで節税効果を反映します。法人税実効税率について詳しく知りたい方は»こちら

これで負債コストを求めるための数字が整いましたので負債コストを計算します。

負債コスト=有利子負債比率×(1ー法人税実効税率)
有利子負債比率 0.38
1ー法人税実効税率 0.7
0.38×0.7=0.264 約0.26%

負債コストは0.26%と計算出来ました。

次に株主資本コストを求めていきます。

❷ 株主資本コストをもとめる

株主資本コスト 手順
では順番に求めていきましょう。

❷-1. リスクフリーレートをもとめる

下記の2つのどちらかで求められます

❶投資する国の10年国債利回りを使用
❷潜在成長率+財政破綻リスク+期待インフレ率

今回は❷でリスクフリーレートを求めていきます。

潜在成長率 1.0%
財政破綻リスク 0%
期待インフレ率 0.5%
1.0%+0%+0.5%=1.5%

よってリスクフリーレートは1.5%と計算出来ました。次にβを求めていきます。

❷-2. β(ベータ)をもとめる

β(ベータ)とは?
市場感応度のことで、株式市場が動いた時に対象の個別銘柄がどれだけ動くかを表す指標のこと。例えばβが2の場合、株式市場が10%上昇すると任意の個別銘柄は20%上昇したという意味です。

βの求め方は次の2つ

  • インターネットで確認をする
  • 対象株価と市場平均を書き出して自分で計算をする

今回はロイターのホームページで確認をします。

β(ロイター)出典:ロイター
β(ベータ)は0.6と分かりました。次にリスクプレミアムを求めていきます。

❷-3. リスクプレミアムを求める

リスクプレミアムとは?
「リスクのある資産」から「無リスクの資産」の期待収益率を引いたものです。

リスクプレミアム=株式市場全体の期待収益率ーリスクフリーレート

今回は下記の条件で求めていきます。

株式市場全体の期待収益率 5%(TOIPXの平均利回りを使用)
リスクフリーレート 1.5%(上記で求めた通り)
5%-1.5%=3.5%

リスクプレミアムは3.5%と計算出来ました。

ではすべて数字が揃いましたので株主資本コストを計算します。

株主資本コスト=リスクフリーレート+β×リスクプレミアム
リスクフリーレート 1.5%
β(ベータ) 0.6%
リスクプレミアム 3.5%
1.5%+0.6×3.5%=3.6%

株主資本コストとは3.6%と求めることが出来ました。

これで負債コストと株主資本コストが求められましたので資本コストを求めていきます。

❸ 資本コストを求める

株主資本コストはWACC(ワック)で求めます。株主資本コストと負債コストを加重平均して求めます。

WACC(ワック)とは?
Weighted Average Cost of Capitalの略称で加重平均コストの事です。計算式は下記のとおりです。

WACC=株主資本コスト×時価総額÷(時価総額+有利子負債)+負債コスト×(1-実効税率)×有利子負債÷(時価総額+有利子負債)
株主資本コスト 3.6%
時価総額(億円) 24,527
負債コスト×(1ー実効税率) 0.26%
有利子負債 7,025(億円)貸借対照表2020年3月負債より

資本コストは約2.86%と計算出来ました。 「資本コスト=割引率」と考えるので割引率は2.86%となります。

今回は以上となります。お疲れ様でした。

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